宇佐見会

同人サークル「宇佐見会」はカードゲームの製作を中心に、グッズ製作や各種イベントの企画を行っている団体です。
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製作/企画:対戦カードゲーム「幻想萃符伝」 | ゲーム交流会「上方東方祭」
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《月面ツアーへようこそ》についての解説

こんばんは、Yifeです。以前お約束した、《月面ツアーへようこそ》のエラッタについてお話ししましょう。かなり長くなりましたが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。

実は、パチュリーと秘封倶楽部関連のカードは、萃符伝第二弾ではなく、独立したミニ・エキスパンションとして頒布する予定でした。このカードの原案が提出されたのは昨年末(2007年12月)のことです。
当初のデザインは以下のようになっていました。

月面ツアーへようこそ 20WW
エンチャント
あなたはゲームに敗北することはなく、あなたの対戦相手はゲームに勝利することはない。
あなたのアップキープ・ステップの開始時、あなたはゲームに勝利する。



この案は以下のような特徴を示します。
・異常に重いマナ・コスト。秘封倶楽部の世界では、バイトの貯蓄程度で行ける程度には宇宙旅行が廉価なようです。それに倣って、『不可能ではないけれど、非常に支払うのが難しく感じられるコスト』を設定しています。
・《白金の天使能力》。"資本主義社会の見せるノアの方舟"を表現するのに、これ以上象徴的なメカニズムがあるでしょうか?
・次のあなたのアップキープの開始時に勝利。これはイメージ的な理由とゲームバランス的な側面があります。イメージ的にはチケットを購入してから地上でのトレーニングを積み、実際に発射準備が整うまでのタイムラグを表します。ゲームバランスから見ると、対戦相手にエンチャント破壊で対処するタイミングを与えることによって、エンチャント破壊カードを相対的に強くするとともに《月面ツアーへようこそ》の強さを抑える効果があります。

開発陣はこの案に興味を引かれました(ええ、もちろん一番乗り気だったのは私です)。開発陣がいくつかの改良点を加えたのが以下のバージョンです。
月面ツアーへようこそ 20
アーティファクト
あなたはゲームに敗北することはなく、あなたの対戦相手はゲームに勝利することはない。
月面ツアーへようこそを生け贄に捧げる:あなたのアップキープ・ステップの開始時、あなたはゲームに勝利する。



・カードタイプがアーティファクトになった。これは純粋にイメージに基づく変更です。月面旅行は明らかに科学の(人工の)産物ですからね。
・マナ・コストから色マナを取り除いた。これはカードタイプがアーティファクトになったことによります。(この時点ではマナ・コストはまだ仮決めでした)
・勝利するためにはカードを生け贄に捧げるようになった。これは、チケットを”もぎる”動作を模しています。

これで大まかな方向性は決定しました。最終的にバランス調整を加えたバージョンが以下です。
月面ツアーへようこそ 30
アーティファクト-チケット
親和(墓地) (※注:ルール的に正しい表記ではない)
月面ツアーへようこそが場に出たとき、あなたがそれを手札からプレイしたのではない場合、あなたがコントロールする他のパーマネントとライブラリーと墓地をゲームから取り除く。
あなたはゲームに敗北することはなく、あなたの対戦相手はゲームに勝利することはない。
月面ツアーへようこそを生け贄に捧げる:あなたの次のターンのターン終了時、あなたはゲームに勝利する。



・サブタイプ「チケット」が追加された。より明確に”チケットをもぎる”という動作を表すためです。
・マナ・コストが(10)増え、親和(墓地)が追加された。萃符伝には(第二弾開発当時)積極的に墓地にライブラリーを落としていくデッキはありませんでしたから、そのテコ入れも兼ねていました。また、このシステムなら他のカードとのシナジーをより重視することになります(シナジーを考えるのって楽しいでしょう?)。
・リアニメイトできなくしました。《満身創痍》等で速攻で持ってきた上で、スーサイドすることができないように、との配慮です。
・勝利タイミングを次のターン終了時にしました。


この時点で開発陣はこのカードを使うデッキは以下の4タイプがあると考えていました。
墓地を稼ぐデッキ
・《十六夜咲夜》+《インフレーションスクウェア》による、大量ディスカード&大量ドローで墓地を稼ぐデッキ。
・《気難しい裁判官》のcip能力で墓地を稼ぐデッキ。
マナを稼ぐデッキ
・《大魔法図書館》《ミステリーサークルの再現》《月&木符「サテライトヒマワリ」》等で大量のマナを産み出すデッキ。
とにかく《月面ツアーへようこそ》を場に出して、負けない置物になるデッキ
・《有限を夢幻に変える景色》から《月面ツアーへようこそ》を墓地に落とし、《満身創痍》で場に戻すデッキ。

それぞれのデッキを組んでプレイした限りでは、マナや墓地を稼ごうとすると早くても6〜7ターンが必要であることが分かりました。また、《有限を夢幻に変える景色》デッキなら理論上最速2ターンで《月面ツアーへようこそ》を場に出すことが可能ですが、その後アーティファクト破壊やバウンス等で対処された場合に負けてしまうもろさを抱えています。つまり、結局いずれのデッキもさほど問題視はされなかったのです。


そして、第二弾が発売されてしばらくが経ったとき、最速1ターンで墓地を稼ぎ、手札から《月面ツアーへようこそ》をプレイするデッキを開発陣の一人が見つけてしまったのです。

以下にそのレシピをお見せしましょう。
//クリーチャー 14枚
4《小野塚小町》
4《図書館の司書》
2《三途の水先案内人、小野塚小町》
4《メイドの魔法陣纏い》

//呪文 22枚
2《月面ツアーへようこそ》
4《投銭「宵越しの銭」》
4《結界「夢と現の呪」》
4《俗世のスキマ》
4《幽明境を異にする》
4《裏表ルート》

//土地 24枚
24《沼》


動作はこうです。1ターン目に沼をセットし、《小野塚小町》をプレイ。その後、《月面ツアーへようこそ》2枚と《投銭「宵越しの銭」》が手札にあればスタートです。
《投銭「宵越しの銭」》を代替コストで、自分を対象にしてプレイします(マナがかからないのでパーツさえあれば1ターン目にそのまま撃てるのがポイント)。自分のライブラリーを何枚めくろうと、《沼》か「黒のカード」しか入っていないのですから、必ずライブラリーがなくなるまで公開して墓地に置くことになります。その後、墓地が十分にたまったので《月面ツアーへようこそ》を2枚プレイし、1枚を生け贄に捧げて次の自分のターンの終了時にゲーム終了です。
いずれかのパーツが揃っていない場合、大量に投入したドロー&サーチカードでライフとか色々かなぐり捨てても持ってきます。なにしろ、《月面ツアーへようこそ》をプレイしてしまえば、ライフがマイナスになろうがライブラリーが空になろうが負けないのですから。

このデッキの恐ろしいところは、必要パーツが少ない上に最序盤からスタートでき、おまけに《月面ツアーにようこそ》に頼らなくても中速黒ビートダウンデッキとして機能することです。しばらくのテストプレイの後、開発陣はなんとかエラッタを出さずに対処しようと努力しましたが、最終的にはエラッタを出さなくてはいけないことに全員が合意しました。


以上が、《月面ツアーへようこそ》が提案されてから、エラッタで修正されるまでの経過です。まとめると、”負けない置物”になること自体はさほど強くなかったのですが、複数枚の《月面ツアーへようこそ》を素早く場に出す方法が発見され、そのデッキが予想以上に安定して動くために修正される、ということになります。

プレイヤーの皆様には、”後出しジャンケン”の様な事態になってしまい、大変申し訳なく感じています。特に《月面ツアーへようこそ》を使用したデッキを作った方、作ろうとしていた方にとって、この影響は無視できるものではないことはよく理解しています。しかし、このまま修正せずに放置すると、環境が《月面ツアーへようこそ》を使用した高速黒デッキを中心に構成されることになりかねません。このデッキはゲームの楽しさをスポイルしてしまう要素がすべて詰まっています。ゲームが運だけで決まってしまうこと、対戦相手を退屈させること、一つのパワーカードによってそれ以外のカードを使ったデッキ構築が絶望的になること、などです。まさに”MoMAの冬”の再来になりかねないのです。

最後に、今回のエラッタ修正についてプレイヤーの皆様に深くお詫びいたします。なお、現在発効しているエラッタは、再販分ではすべて修正される予定です。